地方の食品卸会社がCopilotでExcel在庫データから自動発注リストを生成:欠品ロスを年210万円削減した方法

「また欠品か…」担当者ひとりで回していた在庫管理の限界
「すみません、○○の商品、今週も在庫切れで出荷できないんですが……」
この電話を受けるたびに、胃が締め付けられる感覚がありました。私は山形県内で食品卸売業を営む「庄内フーズ株式会社」(従業員23名)の営業兼在庫管理担当、佐藤健一(38歳)です。取引先のスーパーや飲食店から毎週のように欠品クレームが入り、その度に謝罪と代替提案に追われる日々が続いていました。
問題の根本は分かっていました。Excelで管理している在庫データを人間が目視で確認し、発注判断をしているという、アナログな運用です。私一人で数百品目の在庫を管理しながら、同時に営業活動もこなすのは、正直限界でした。「もし自動で発注リストが作れたら……」と何度夢を見たことか。その夢を、Microsoft Copilotが叶えてくれることになります。
なぜCopilotを選んだのか――導入のきっかけ
転機は2025年10月のことでした。会社で契約しているMicrosoft 365のライセンスに、Copilot for Microsoft 365が含まれていることに、社内のITに詳しい同僚から教えてもらったのです。「え、もう使えるの?」と驚いたくらい、その存在を知りませんでした。
実はそれ以前にも、自動化ツールの導入は検討していました。専用の在庫管理システムの見積もりを複数社に依頼したところ、初期費用だけで80万〜150万円、月額保守費用も3〜5万円という見積もりが返ってきました。中小企業の私たちには、正直かなりハードルが高い。「そんな予算はない」と社長に即座に却下され、その後は半ば諦めていたのです。
ところがCopilotは、すでに月額費用を払っているMicrosoft 365の中に含まれている。つまり追加コストはほぼゼロ。これなら試してみる価値がある、と思いました。同時に、私たちの在庫データはすべてExcelで管理されていたため、ExcelとCopilotの親和性が高いことも大きな後押しになりました。
2025年11月から個人的に触り始め、2025年12月に本格運用をスタート。今日(2026年7月)時点で約7ヶ月が経過し、その効果は数字にはっきり表れています。
具体的な取り組み――Copilotをどう使ったか
まず、Excelの在庫データを整理するところから
最初にやったのは、既存のExcelファイルの「棚卸し」です。長年の運用で、シートが10枚以上に分かれており、列名も担当者によってバラバラ(「残数」「在庫数」「現在庫」など表記がまちまち)でした。Copilotにうまく読み込ませるには、データの整合性が前提になります。
まずExcel上でCopilotに以下のプロンプトを投げました。
【プロンプト①:データ整理の指示】
「このシートの列名を確認して、在庫数・発注点・リードタイム・直近30日の出荷数量が含まれているか教えてください。不足している列があれば教えてください」
Copilotは即座に「『残数』は在庫数と判断できます。ただし発注点の列が見当たりません。また直近出荷数量の列もないため、発注量の計算には別途データが必要です」と返してくれました。この「抜け漏え指摘」が非常に役立ち、約2週間かけて在庫管理シートを以下の列構成に統一しました。
- 商品コード
- 商品名
- 現在庫数(箱単位)
- 発注点(この数値を下回ったら発注する閾値)
- 発注ロット(1回の発注単位)
- リードタイム(日数)
- 直近30日出荷数量
- 直近7日出荷数量
- 仕入先コード
自動発注リスト生成の核心プロンプト
データが整ったところで、いよいよ本命の「自動発注リスト生成」に挑みました。毎週月曜日の朝、最新の在庫データをExcelに入力し終えた後、Copilotに以下のプロンプトを入力します。
【プロンプト②:発注リスト生成】
「このシートのデータを分析して、現在庫数が発注点を下回っている商品を全て抽出してください。抽出した商品について、発注ロット列の数量で発注リストを作成し、仕入先コード別に並べ替えて新しいシートに出力してください。リストには商品コード・商品名・発注数量・仕入先コード・緊急度(在庫数÷発注点が0.5未満の場合は『緊急』、それ以上は『通常』)を含めてください」
最初にこれを実行した時は、本当に感動しました。約340品目のデータから、発注が必要な商品を数秒で抽出し、仕入先別に整理した新しいシートを作ってくれたのです。以前は同じ作業を手動でやっていたため、毎週月曜日の午前中2〜3時間を費やしていました。
季節変動を加味した発注量の最適化
食品卸売業において、季節変動は非常に重要なファクターです。夏場はそうめんやアイスクリーム系の需要が急増し、冬場は鍋物素材が動く。定点的な発注点管理だけでは、繁忙期の欠品は防げません。そこで次のプロンプトを追加しました。
【プロンプト③:季節変動を加味した発注量の補正】
「直近7日出荷数量と直近30日出荷数量を比較して、直近7日の日平均出荷数が直近30日の日平均出荷数より20%以上多い商品には『需要増加傾向』フラグを立ててください。該当商品の発注量は通常の1.5倍に変更したリストを作成してください」
このプロンプトにより、需要が急増している商品を自動的に検知し、発注量を自動増量できるようになりました。夏場の繁忙期(6〜8月)や年末(12月)において、この機能は特に威力を発揮しています。
仕入先へのメール文面もCopilotで自動生成
発注リストが完成したら、次は仕入先への発注メールです。これまでは発注リストを見ながら、仕入先ごとに手動でメールを作成していました。これも地味に時間がかかる作業で、1社あたり5〜10分、週に5〜8社への発注メール作成で合計30〜80分を費やしていました。
そこでCopilotに以下を依頼しています。
【プロンプト④:発注メール自動生成】
「このシートの仕入先コード『S-012』向けの発注リストをもとに、発注依頼メールの文面を作成してください。件名・本文・発注明細(表形式)を含め、納品希望日は今日から5営業日後、担当者名は佐藤健一、会社名は庄内フーズ株式会社として作成してください」
Copilotは件名から本文、商品明細表まで含めた発注メールを瞬時に生成してくれます。私は内容を確認して、必要に応じて微修正をかけてから送信するだけ。メール作成時間が1社あたり5〜10分から1〜2分に短縮されました。
月次レポートの自動作成も実現
【プロンプト⑤:月次在庫サマリーレポート作成】
「今月の在庫データを分析して、欠品が発生した商品・回数・推定損失金額(出荷単価×欠品数量)を一覧にしてください。また在庫回転率が低い(月次出荷数÷平均在庫数が0.5未満の)商品も抽出して、過剰在庫リストとしてまとめてください」
このプロンプトにより、月次の在庫レポートを30分かけて手作業でまとめる作業が、約5分で完了するようになりました。社長への月次報告資料の質も上がり、「最近レポートが分かりやすくなった」と言われるようになったのは、ちょっと嬉しかったです。
失敗談と改善――うまくいかなかったこと3選
失敗①:プロンプトが曖昧で엉뚱な結果が出た
最初の頃、「在庫が少ない商品を発注リストにまとめて」という、ざっくりしたプロンプトを使っていました。するとCopilotは「少ない」という曖昧な基準を自分で解釈し、全商品の中で在庫数が下位20%の商品を抽出してきました。これでは発注点という業務上の基準が全く考慮されておらず、実態とかけ離れたリストになってしまいます。
改善策:「発注点を下回っている商品」という具体的な条件を明示するようにしました。Copilotは指示に忠実に動いてくれますが、業務上の定義・基準は人間が明確に伝える必要があります。「AIは何でも分かってくれる」という思い込みは禁物です。プロンプトに業務用語の定義(「発注点=この列の数値を下回ったら発注が必要な閾値」)を一行添えるだけで、精度が格段に上がりました。
失敗②:Excelのデータに空白行・結合セルが混在していた
整理したつもりのExcelデータでも、古い担当者が作ったシートには結合セルや空白行が残っていました。Copilotはこういったデータの乱れに意外と弱く、「データが不完全なため分析できません」というエラーが頻発しました。特に結合セルは、Copilotが列の境界を正しく認識できなくなる原因になります。
改善策:Excelの「テーブル機能」を使って、データ範囲を正式なテーブルとして定義しました。テーブル化することでCopilotがデータ構造を正確に認識し、エラーが激減。テーブル化の作業自体は半日かかりましたが、その後の安定動作は劇的に改善されました。今では新しい商品を追加する際も、必ずテーブル行として追加するルールを社内で統一しています。
失敗③:Copilotの提案をそのまま発注して過剰在庫が発生した
運用開始から3週目のこと。ある商品について、Copilotが「需要増加傾向」フラグを立て、発注量を1.5倍に増量することを提案しました。私はそれを確認せずそのまま承認して発注。しかし実際には、その商品の直近7日間の出荷急増は、特定の1社からの大口注文が原因で、翌週以降は通常の需要に戻ったため、結果的に通常在庫の約3週間分が倉庫に積み上がってしまいました。
改善策:「Copilotの提案は最終判断ではなく、確認のための下書きである」というルールを自分に課しました。特に発注量が通常の1.3倍を超える場合は、必ず直近の営業日報や得意先の動向と照らし合わせる確認ステップを設けています。AIはデータの中のパターンを見ますが、「なぜそのデータになったか」という背景は人間にしか分かりません。AIと人間の役割分担を明確にすることが、安定運用の鍵だと学びました。
成果・数値――Before/Afterで見る改善効果
2025年10月(導入前)と2026年6月(導入後7ヶ月)を比較すると、以下のような結果が出ています。
指標 | Before(2025年10月) | After(2026年6月) | 改善幅 |
|---|---|---|---|
月間欠品発生件数 | 平均38件 | 平均9件 | ▲76% |
欠品による推定損失(月間) | 約29万円 | 約11.5万円 | ▲約17.5万円 |
欠品による推定損失(年間換算) | 約348万円 | 約138万円 | ▲約210万円 |
在庫集計・発注リスト作成時間(月間) | 約22時間 | 約4時間 | ▲18時間 |
発注メール作成時間(月間) | 約6時間 | 約1.5時間 | ▲4.5時間 |
月次レポート作成時間 | 約2時間 | 約20分 | ▲約1時間40分 |
過剰在庫(滞留在庫)品目数 | 平均47品目 | 平均28品目 | ▲40% |
欠品ロスの削減額は、取引先からの注文に対応できなかった件数に平均単価・利益率をかけて算出しています。欠品時に代替品で対応できたケースは損失にカウントしていないため、実際の機会損失はこれ以上あったと思われます。
月18時間の在庫集計作業削減というのも、私にとってはとても大きな意味を持ちます。浮いた時間で新規開拓の営業活動が月に3〜4回増やせるようになり、2026年4月には新規取引先を2社獲得することができました。時間の価値換算でいえば、営業活動への転換分も含めると、実質的な効果はさらに大きいと感じています。
応用・発展――さらなる活用のアイデア
今後取り組もうと計画しているCopilot活用のアイデアを、いくつかご紹介します。同じような課題を持つ方のヒントになれば幸いです。
取引先別の売れ筋・死に筋分析の自動化
現在は全社横断の在庫管理にCopilotを使っていますが、次のステップとして「取引先A社では何が売れていて、何が止まっているか」を自動分析し、提案書のたたき台を自動生成する仕組みを作ろうとしています。取引先ごとの出荷データをCopilotに読み込ませ、「売上構成比が前月比で変化している商品」を自動抽出するプロンプトを現在テスト中です。
天候・イベントデータと連携した需要予測
山形県は気候の変化が出荷量に直結する商品が多いです。例えば気温が30℃を超えるとそうめんの出荷が急増する、といった傾向があります。気象庁の公開データをCSVでダウンロードし、在庫データと組み合わせてCopilotに「気温と出荷数の相関が高い商品トップ10を教えて」と問いかけることで、より精度の高い発注予測ができると考えています。
Copilot in TeamsでチームへのAIブリーフィング
今は私一人がCopilotを使っていますが、社内の他のメンバーにも活用を広げたいと思っています。特にMicrosoft Teamsのチャットに毎週月曜日朝に「今週の注意商品リスト(在庫が逼迫している商品)」を自動投稿する仕組みをCopilot in Teamsで構築する計画があります。営業担当者が商談前に在庫状況を把握できれば、欠品クレームをさらに減らせるはずです。
返品・廃棄データの分析
食品卸売業では廃棄ロスも大きな課題です。賞味期限が近い在庫データをCopilotで定期的にスキャンし、「廃棄リスクのある商品リスト」を自動生成して、事前に値引き販売や振り替え出荷の提案ができる仕組みも実装したいと考えています。
まとめ――「難しそう」と思っている方へ
Copilotを使い始める前、私は「AIなんて自分には使いこなせない」と半ば思っていました。プログラミングはできないし、ITの知識も特別あるわけでもない。しかし実際に使ってみると、普通の日本語で話しかけるだけで動いてくれる。難しい設定も専門知識も要りません。
大切なのは、「何をしてほしいか」を具体的に言葉にすること。そして最初から完璧を求めず、小さく始めて少しずつ改善していく姿勢です。私も最初のプロンプトは全然うまくいきませんでしたが、失敗しながら試行錯誤する中でコツが掴めてきました。
すでにMicrosoft 365を使っている会社なら、Copilotは追加コストなしで試せる環境が整っているケースが多いです。まずは自社のExcelデータをCopilotに読み込ませて、「このデータで何ができますか?」と聞いてみることから始めてみてください。きっと、思っていたより簡単に、思っていたより大きな変化が生まれるはずです。
地方の小さな食品卸会社でも、年210万円の欠品ロスを削減できました。同じような悩みを抱えている方の参考に、少しでもなれれば嬉しいです。