税理士事務所がCopilotで月次レポート作成を自動化、担当者1人あたり月30時間を削減した全手順

税理士事務所がCopilotで月次レポート作成を自動化、担当者1人あたり月30時間を削減した全手順
「また今月も残業か…」月次レポートに追われる税理士の現実
毎月25日を過ぎると、事務所の空気が変わる。
クライアントへの月次報告書の締め切りが迫り、担当者たちはExcelとにらめっこしながら深夜まで作業を続ける。試算表から数字を拾って、前月比を計算して、グラフを貼り付けて、コメントを考えて……。こなれた作業のはずなのに、なぜかいつも時間がかかる。
私が所属する中村会計事務所(仮名・東京都新宿区、スタッフ12名)でも、まったく同じ状況が続いていました。顧問先は約150社。毎月、各クライアントに経営状況をまとめた「月次経営レポート」を提出するのが私たちのサービスの柱なのですが、その作成作業だけで担当者1人あたり月30〜40時間を費やしていたんです。
「もっと付加価値の高い仕事に時間を使いたい」「このままではスタッフが疲弊してしまう」——そんな危機感から始まったのが、Microsoft Copilotを使った月次レポート自動化プロジェクトです。今回は、試行錯誤の末にたどり着いた実際の手順を、失敗談も含めて包み隠さずお伝えします。
なぜCopilotを選んだのか——導入のきっかけと背景
2025年の秋、うちの事務所でもスタッフの採用難が深刻になってきました。会計業界全体で人手不足が続く中、既存のスタッフに負担が集中し、ベテランの田中さん(入所10年)から「もう限界に近い」と相談を受けたのがすべての始まりです。
AI活用は以前から気になっていましたが、「税務・会計は専門性が高いから、AIには任せられない」という先入観がありました。でも、田中さんの言葉を聞いて考え方が変わりました。「全部をAIに任せなくていい。時間のかかる単純作業だけでも減らせれば十分じゃないか」と。
ツール選定では、ChatGPTやClaude、Geminiなども検討しましたが、最終的にMicrosoft Copilot(Microsoft 365 Copilot)を選んだ理由は3つあります。
- 既存環境との親和性:事務所ではすでにMicrosoft 365(Word・Excel・Outlook・Teams)を使っており、追加コストを最小化できる
- セキュリティ面の安心感:クライアントの財務データを扱う以上、データがAIの学習に使われない保証が必要だった。Microsoft 365 CopilotはMicrosoftのコンプライアンス境界内で動作する
- ExcelやWordとの直接連携:試算表(Excel)から直接レポート(Word)を生成できる統合環境が魅力だった
Microsoft 365 Copilotのライセンスは1人あたり月額4,497円(当時)。12名全員ではなく、まず月次レポートを担当する5名に絞って試験導入することにしました。月額コストは約22,500円。もし月30時間の削減が実現すれば、時給換算でも十分ペイできる計算です。
具体的な取り組み——実際にどう自動化したか
STEP1:現状の業務フローを可視化する
まず、月次レポート作成の作業を細かく分解しました。これをやらずにCopilotを導入しても、「どこに使えばいいかわからない」という状態になります。実際、私たちが洗い出した作業は以下の通りです。
- 会計ソフト(弥生会計)から試算表をExcelで出力(約10分/社)
- 前月・前年同月のデータと比較する比較表をExcelで作成(約20分/社)
- グラフ(売上推移・経費推移・利益率推移)を作成(約15分/社)
- 分析コメントを考えてWordに入力(約30分/社)
- レポートのレイアウト調整・体裁整え(約15分/社)
- 所長チェック後の修正対応(約10分/社)
1社あたり合計約100分。担当者によっては月40〜50社を抱えているため、単純計算で月66〜83時間が月次レポートだけに消えていました。
STEP2:Excelのデータ整形をCopilot in Excelで自動化
会計ソフトからエクスポートしたExcelデータは、そのままでは使いにくい形式になっています。不要な行の削除、勘定科目の並び替え、前月比・前年比の計算式入力——これらの整形作業にCopilot in Excelを使いました。
実際に使ったプロンプトはこちらです:
【プロンプト例①:データ整形】
「A列に勘定科目名、B列に当月金額、C列に前月金額が入っています。D列に前月比(当月÷前月×100)を小数点1桁で計算する数式を入れてください。前月がゼロの場合は『―』と表示してください。また、売上合計・売上原価合計・販管費合計・営業利益の行を太字にしてください。」
これだけで、手作業で20分かかっていた比較表の計算式入力と書式設定が約2分で完了します。最初は「本当にできるの?」と半信半疑でしたが、試してみると驚くほど正確に動作しました。
STEP3:グラフ作成もCopilotに依頼
グラフについても、以前は「どのデータをどのグラフで見せるか」を考えながら手動で作成していました。今はCopilotに次のように指示しています。
【プロンプト例②:グラフ生成】
「1行目にヘッダー(月度・売上高・売上原価・粗利益・粗利率)が入っています。以下の3つのグラフを作成してください。①過去12ヶ月の売上高と粗利益を棒グラフで表示(売上高を青、粗利益を緑)②粗利率の折れ線グラフ③直近3ヶ月と前年同期3ヶ月を比較する棒グラフ。各グラフにタイトルをつけてください。」
3つのグラフが一度に生成されます。細かいデザイン調整は多少必要ですが、ゼロから作る時間と比べれば雲泥の差です。
STEP4:分析コメントの自動生成がもっとも効果的だった
作業時間の中で最も時間を食っていたのが「分析コメントの作成」です。数字を見ながら「何が起きているか」「何に注意すべきか」を文章にする作業は、知識と経験が必要で、若手スタッフには特に負担が大きかった。
ここではCopilot in WordとCopilot Chatを組み合わせて使っています。まず、整形済みのExcelデータをCopilot Chatに貼り付け、以下のプロンプトで分析コメントの骨子を生成します。
【プロンプト例③:分析コメント生成】
「以下は○○株式会社の2026年5月の月次試算表データです。この会社は東京都内で飲食店を3店舗経営しています。このデータをもとに、以下の観点で経営者向けの月次レポートコメントを300字程度で作成してください。①今月の業績サマリー(売上・利益の増減とその主因)②前月・前年同月比で特に注目すべき変化 ③来月以降に注意すべきポイント。専門用語は避け、経営者が直感的に理解できる表現を使ってください。」
生成されたコメントはそのままでは使えないことも多いですが、「たたき台」として非常に優秀です。担当者は内容を確認・修正するだけでよく、ゼロから考える必要がなくなりました。
STEP5:Wordレポートの自動生成でフォーマットを統一
最後のステップは、Copilot in Wordを使ったレポート全体の生成です。事務所のレポートテンプレート(Word形式)をベースに、Copilotに指示を出してコンテンツを流し込みます。
【プロンプト例④:Wordレポート生成】
「添付のExcelデータと以下の分析コメントをもとに、月次経営レポートを作成してください。レポートの構成は①今月のハイライト(3行以内)②主要指標サマリー表③売上・利益の分析コメント④来月への提言(箇条書き3点)としてください。文体は丁寧語で、経営者への提案書として適切なトーンにしてください。」
さらに、TeamsとPower Automateを連携させ、Excelデータがクライアントフォルダに格納されたら自動的にCopilotの処理がトリガーされる仕組みも構築しました(これはIT担当者に依頼して設定)。
失敗談と改善——うまくいかなかったこと、その解決策
失敗①:プロンプトが曖昧すぎて「使えないコメント」が量産された
最初の2週間は、生成されるコメントの品質がバラバラで、スタッフから「結局全部書き直しになる」という声が上がりました。原因を分析すると、プロンプトに「業種」「顧客の特徴」「見てほしい指標」が含まれていなかったことがわかりました。
解決策:クライアントごとに「コンテキストシート」を作成しました。業種・規模・前期からの懸案事項・担当者が毎月チェックしている指標などを1ページにまとめ、プロンプトに必ず添付するルールにしました。これだけでコメントの質が劇的に改善し、修正時間が約70%減りました。
失敗②:Excelの出力形式が会計ソフトのバージョンによって違っていた
弥生会計のバージョンが古い一部クライアントのデータは、Excelの列構造が微妙に違っており、Copilotへの指示がうまく機能しないケースが発生しました。「A列に勘定科目」のつもりが実際には「B列から始まっている」というパターンです。
解決策:中間ステップとして「データ正規化テンプレート」をExcelで用意しました。どの形式で出力されたデータでも、まずこのテンプレートに貼り付けることで列構造を統一し、そこからCopilotに渡すフローに変更。この「前処理」を挟むだけで、エラーがほぼゼロになりました。
失敗③:若手スタッフがCopilotの出力を「そのまま」提出してしまった
導入から1ヶ月後、ベテランの所長がチェックした際に「この数字の解釈がおかしい」「こんな表現は使わない」という指摘が複数クライアントで出ました。調べてみると、入所2年目のスタッフがCopilotの生成結果を確認せずにそのまま提出していたことが判明しました。
解決策:2段階のチェック体制を整備しました。①担当者がCopilotの出力内容を必ず読んで「確認済み」のチェックボックスをTeamsの進捗管理シートに入れる ②3年未満のスタッフのレポートは先輩が必ずレビューするルールを設ける。また、「AIはあくまで補助ツール。最終責任は担当者にある」というスタンスをチーム全体で再確認するミーティングを開催しました。この出来事は逆に、AIとの向き合い方を事務所全体で考える良い機会になりました。
成果・数値——Before/Afterの比較
Copilot導入から6ヶ月が経過した2026年4月時点での成果をまとめます。
作業項目 | 導入前(1社あたり) | 導入後(1社あたり) | 削減率 |
|---|---|---|---|
試算表データ整形 | 約20分 | 約3分 | ▲85% |
グラフ作成 | 約15分 | 約4分 | ▲73% |
分析コメント作成 | 約30分 | 約8分 | ▲73% |
Wordレポート作成・体裁整え | 約15分 | 約5分 | ▲67% |
チェック・修正対応 | 約10分 | 約7分 | ▲30% |
合計(1社あたり) | 約90分 | 約27分 | ▲70% |
担当者1人が月に担当するクライアント数は平均40社。導入前は月に約60時間を月次レポートに費やしていましたが、導入後は約18時間に。差し引き月約42時間の削減となりました(目標の30時間を大幅に上回る結果)。
時間削減以外の効果も見逃せません。コメントの品質にスタッフ間のばらつきが少なくなり、所長によるチェックで戻ってくる回数が平均2.3回から0.8回に減少。結果として、クライアントへのレポート提出日が平均3日前倒しになり、「報告が早くなった」というポジティブなフィードバックを複数社からいただきました。
ライセンスコストは5名分で月約22,500円ですが、浮いた時間をクライアントへの経営相談や新規提案に充てることができ、顧問料の値上げ交渉や追加サービスの受注につながったケースも3社出ています。投資対効果は十分に出ていると感じています。
応用・発展——さらに広がる活用アイデア
月次レポートの自動化で自信がついた私たちは、現在さらなる活用に取り組んでいます。
①決算報告書のドラフト作成
月次レポートで培ったノウハウを活かし、決算期の「決算説明資料」のドラフト作成にもCopilotを使い始めました。1期分のデータを渡して「3期比較の財務サマリーと特記事項」を生成させると、所長が最終確認に集中できる環境が整いつつあります。
②税務署への提出書類に関するQ&A対応
クライアントからよく来る「この経費は落ちますか?」「この取引はどう処理するの?」といった問い合わせに対し、Copilot Chatを使って一次回答案を素早く作成。担当者が内容を確認してからメールで返信する流れにすることで、問い合わせ対応時間が約40%短縮されました。
③Outlookとの連携でクライアントメールを自動分類
Copilot in Outlookを使い、受信したクライアントメールを「至急対応」「月次処理」「確認待ち」に自動分類するルールを設定。見落としによるミスが減り、スタッフのストレスも大きく軽減されたと好評です。
④新人教育への活用
「このクライアントの試算表を見て、どんな点が気になるか10個挙げてください」とCopilotに聞いた回答を教材にする研修も試験運用中です。ベテランの視点を「可視化」することで、若手の育成スピードが上がることを期待しています。
今後は、Power BIとの連携により、複数クライアントをまたいだ業種別ベンチマーク分析も自動化できないか、検討を進めています。
まとめ——「AIに任せる」ではなく「AIと一緒に考える」
今回の自動化プロジェクトを通じて、私が最も感じたことは「AIは魔法の道具ではない」ということです。プロンプトを磨くこと、前処理の仕組みを整えること、チェック体制を設けること——こうした「人間側の準備」があって初めて、Copilotは本来の力を発揮します。
特に税理士・会計業界は「専門知識が必要だからAIは使えない」という思い込みが根強い。でも実際には、AIが一番得意な「フォーマットに沿った文章生成」「データの集計・比較」「定型コメントのたたき台作成」こそが、私たちの日常業務の大半を占めていたことに気づきました。
月30時間以上が浮いた担当者の田中さんは今、空いた時間でクライアント先を訪問し、財務データから見えてきた経営課題を提案するコンサルティング業務に取り組んでいます。「数字を作る仕事から、数字を活かす仕事に変わってきた」という言葉が、このプロジェクトの成果を一番よく表していると思います。
同じような課題を抱えている税理士・会計事務所の方に、ぜひ一度試してみてほしい。まず1社分のデータで、プロンプト例①から試してみてください。きっと「これ、いけるかも」という感覚が掴めるはずです。